読んだ本が読みっぱなしでたまる一方の最近。。少々古い本ですが、再度読んでみました。
自らを「現代アートのチアリーダー」と呼ぶアートプロデューサーの山口裕美氏による現代アートの入門書。
「現代アート」というものが如何に取っ付きづらいものであるかを本書のタイトルは暗示している。「入門書を読むための入門書」が必要であるほど「現代アート」と呼ばれるものが難解であり閉鎖的であるという象徴である。
山口裕美はその前提にたった上で、どのようにして現代アートをビギナーに紹介するのだろうか?そこに興味を持って私はこれを読んだ。なぜならば私もまた、どのようにすればアートの面白さを広く日本人一般に知ってもらえるのか、と問題意識をもっている一人であるからだ。
ビギナー向けの本ではない
結論から言うと私が期待をしていたような「入門の入門」というほどビギナー向けの本ではない。
これもまた本のタイトルが既に示しているのだが、本書は”SNSなどの自己紹介の趣味の欄に「アート」と書くような種類のビギナー”向けの本であり、頭の中に「アート」の三文字が存在していないような種類の人々に対して書かれた本ではない。これは本というものが消費者に対して主体性を要求するメディアであること故の限界でもあるのだが。。
後者のような種類の人々に向けて書かれる本であれば「ピカソはなぜ美術の教科書にでてくるのか?」みたいなタイトルの方がフックとして有効である。言わずもがな「入門」と名のつくような書籍を手に取るのは「よく知らないんだけど興味があるので知りたい」というタイプの人々なのだから。
じゃあ誰向けのアート本なの?
本書は「よく知らないんだけど興味がある!」または「美術の道を志そう!」そういった人たち向けの本である。
この「現代アート入門の入門」は現代アートの基礎周辺をひと通りきれいに網羅している。最新の動向、アートの効用、現状、歴史、個別のアーティスト、アートが見れる場所。。この一冊を読めば今の日本における現代アートと呼ばれるジャンルの骨格が一応把握できる。
以下少しばかり本書の構成をみてみよう。
目次一覧
- 第1章 ニューヨークで起こった事件
(村上隆HIROPON落札) - 第2章 世界の美術館は今
(現代美術館とワールドワイドな美術館との対比) - 第3章 日本独自の「貸画廊」というシステム
(ギャラリー&ギャラリスト) - 第4章 日本の現代アートの流れ
(個別アーティストを引き合いに出しながらの歴史の俯瞰) - 第5章 アートの時代
(アートの有益性・意味について) - 第6章 一枚の絵は人生を変える
(アートへの参加:作品の見方・購入) - 第7章 時代を映す三人の海外現代アーティスト
(タイトル通り) - 第8章 独断と偏見の美術館インデックス
(おすすめの美術館) - 第9章 自信を持ってオススメする現代アーティストインデックス
(おすすめのアーティスト25名)
わざわざ目次を引用したのは「よく知らないんだけど興味がある!」等と、なぜビックリマーク付きで対象読者を絞ったのかという根拠を見てもらいたかったからだ。
各章の下の括弧書き部分は私が補足したものだが、第一章から第三章までの目次が示唆するように、本書は「さほど興味もないのだが気にならないことはない」程度の人たち向けの本ではない。
ツクリテ側に立ったアート紹介の本
まず村上隆を頭に持ってくるあたりが、すでにある程度アートをカジッている人たちが読者になることを要求されるし、第3章まで、すなわち本書の冒頭はすべて日本と海外のアート比較のためのテキストである。
この日本vs海外の二項対立を持ち出すと、その結果導きだされるのは日本のアートを取り巻く問題提示にしかならない。これを入門書の導入部分に持ってくるあたり、内輪向けの話しである。その意味において本書が「入門の入門」になるわけもなく、控えめに言ってビックリマーク付きの興味がある人たち向けの本であるということなのだ。
ましてや貸し画廊をひとつの章で扱うなど、アートに興味を持っているだけの初心者が欲している情報でないのは明らかだ。
日本の現代アートをコンパクトにサクっとしかもポイントを押さえて把握するには良書だと思うし、作り手側に寄って立つスタンスが見て取れるのは、私としては心強さを感じるし、内容に特に異論があるわけではないのだが、内容が内輪的であることなどから「入門書」という点においてオススメできるかといえば☆3つというところ。どちらかというと美大生に読んで欲しい本。ターゲットが曖昧といえば曖昧に感じた。
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