日本で一番有名なギャラリスト小山登美夫。奈良美智、村上隆を売り出した仕掛け人。そんな小山登美夫氏が著した『アートとお金に関する本』。売れない売れないといわれる現代アートを売りに売っている彼の手法がここにある。
ギャラリストの仕事とアートとお金にまつわる本
大きく分けて4部に構成されており、第一部はギャラリストの仕事について。
小山氏のギャラリストになるまでのプロセスと、現在に至るまでのことが結構詳細に書かれており、如何にして市場と顧客とを開拓してきたのかが具体的に書か れていて参考になった。名が知れ渡っている割には何かと情報の少ない小山登美夫という人物がどういう人間なのかがわかって個人的にはとても好感をもった。
第二部では村上隆と奈良美智の二人のアーティストについて身近にいる彼自身の視点で考察している。 この件を読む限り、小山登美夫氏は奈良美智のほうが好きなんだろうなー(笑)なんて下世話な部分が見えてくる。
また村上、奈良を現代アートの文脈に如何にしてのせていくかや、彼なりのアーティストの前提条件を提示していたり、プレゼンテーション及びメディア露出、広報などと作品価値との関係などについてが書かれている。つまり作品そのもののみが、作品の価値を決定するのではないという、本来ならば至極当たり前のことなのだが、作ることに専念しすぎてしまうきらいのあるツクリテたちには見えずらいとても重要なことが記されている。
第三部と第4部はお金とアートにまつわる話だ。
何かと隠されてしまうこの手の話だが、明快に解説、暴露(?)されておりアーティスト志望者やアートへ投資しようとしている方、アートを買いたい方には非常に貴重な情報である。如何にして作品価格が上がっていくかや、値段のつけ方、オークションの仕組みやアートフェアでの作品売買の実態など、とにかく貴重な情報だらけ。
総じて”アートとお金”の普段不透明な関係が明らかにされており、現在ないに等しい日本のアート界、アート市場をこれから作り上げていくためには出版されなければならなかった種類の本だと言えよう。
おもに絵画を主とした平面系の話
一つだけ注意をしておかなければならないのが、現代アートビジネスという題名を付されてはいるが、実際に書かれている具体論はすべて絵画、版画などの平面系の話であるという点。売りに売っているギャラリストといえども、やはり立体となると別の話になるようである。注意深くよんでいると立体の話ではないことがわかる。
しかしそれを差し引いても、アーティスト志望者にはもちろん、アートにちょっと興味をもってらっしゃる文化的知性の高いみなさまが読むには本当におすすめ。価格も1000円をきる値段。ただアートというマイナーな世界について書かれた本であるため、町の本屋さんで手に入れるのは困難か。
もっと詳しく現代アートビジネス(アスキー新書 61)をみてみる。