日本の伝統的な金属加工技法である金工は、大きく3つに大別される。「鍛金」「彫金」「鋳金」である。
金工技法に限らず、多くの日本の伝統技法が継承者不足で危機に瀕しているが、日本人ではなくイギリス人であるFord Hallam氏による見事な彫金の技がYouTubeに公開されていて、思わず見入ってしまったのでご紹介。
忙しい人のために概要を書きだしてみる
内容は19世紀の水戸の金工家、萩谷勝平の作品である刀の鍔(つば)を写真から復元するというもので合計30分近くの大作。
きれいに編集されているので、見入ってしまうと思いますが、時短したい方のためにざっくり内容をご紹介。
湯床吹きで地金を作る
のっけから日本に古くから伝わる秘法「湯床吹き」で地金を作り始めます。各所で見え隠れしますが、本当に日本伝統金工技法に精通していらっしゃいます。。
地金を削り出し磨き上げる
油床吹きでできた地金を叩き板状に伸ばす「山おろし」を行い、それを削り形を形成し、丹念に磨き上げます。
この磨き出しに際し、Ford Hallam氏は仏教と坐禅に思いを馳せます。
ちなみに磨きに用いる砥石はWater of AyreやScotchというもの以外は使わないそうです。
出来上がった地金を色上げしてみて検査
地金の状態の調査のために、実際に色上げをしてみてテストします。
その際、大根おろしに漬け込んでいます。。うむむ。
透かし彫りを施し材を形成
テストがうまくいったので、地金に型を写し、糸鋸で地金を切っていきます。透かし彫りですね。
ヤニ台に固定する
これから削りの作業に入るため、材料が動かないようにヤニ台に固定します。よく用いられる主原料松ヤニをベースにしたもので、軽く温めとろぉ~っと柔らかくしたところで材料をくっつけます。
鏨作業で削り出していく
ここからが本作業です。鏨(タガネ)と呼ばれる鉄の刃を「おたふく」という金槌で叩き、削っていきます。
ベース部分完成
おおまかな削り出しが終り土台が完成しました。この後虎の毛を彫ったり、目を入れたりと細かい作業に入っていきます。
必要に応じて他の色金を象嵌する
今回は虎を作っているため、その縞模様の部分を、他の色の金属を縞の模様に切り取り、それを母材に埋め込むなどの象嵌の仕事もしていきます。
金消し(キンケシ)で色を付ける
笹の葉の部分を金色にするために「金消」と呼ばれる渡金技法を使います。これは古墳時代くらいから使われているもので、金アマルガムとよばれるものを材に塗り加熱することで行います。
アマルガム (amalgam)とは、水銀と他の金属との合金のことで、加熱することで水銀のみが蒸発して表面に金が残るという仕組みです。
昔のヨーロッパでは、金アマルガムのことを「金のバター」と呼んでいたんだそうです。食ったら死んでしまいますが…。
銘を入れる
加工作業が完了したら最後に銘を彫ります。一発限りの大仕事で決してミスは許されません。ここでミスればすべておジャンです。さすがのFord Hallam氏も緊張の色が隠しきれてません。。
なんとか無事に銘入れが終りました。Ford Hallam氏の雅号は「歩王道」だろうです。ほぉーどぅ。
色上げして完成
金属は化学変化を与えてやることで色が変わるので、これを利用して色をつけるのです。塗装なんざ邪道でーす。
また色上げには予め人工的に化学変化を起こしてしまうことで、これ以上の自然腐食を防ぐという効果もあります。
色上げについて詳しく知りたい方は「金属の発色技法-金属は化学変化で色を出す」もご覧アレ。
無事に完成しました!
Utsushi – in search of Katsuhira’s tiger
動画は以下からどうぞ!
Ford Hallamとは何者か?
気になって調べてみたらWEBサイトがありました。略歴を見るとやはり度々日本に訪れては技法習得に励んてこられたようです。
いやはや私は彫金に関しては門外漢なのですが、圧巻でしたね。。磨き出しに際し仏教と坐禅に思いを馳せるFord Hallam氏。感服です。
どうやらFord Hallam氏はもともとロンドンのVictoria and Albert Museumの日本工芸のキュレーターをなさっていたようです。