東京国立近代美術館の所蔵作品展を見てきました。
「近代日本の美術」と題された展示では、美術という言葉が生まれた明治から今日に至る近代日本の美術の流れをその歴史的背景なんかとともに追えるような構成になっています。
開国による外国文化の流入、大正デモクラシー、都市の出現、戦時と戦後、高度経済成長、そして現代へと、その歴史的背景が芸術表現にどのような 影響を与えたのかが見えてきます。(複雑で混沌とした無数の作品の中から、企画者の視点、意図の下にセレクトされているわけで当たり前といえば当たり前で すが) それ故歴史に詳しい方なぞは楽しめましょうし、そうでない人もコーナーごとに説明書きがありますんで それを見てから作品を鑑賞することで見えてくるものがあるのでは?
photo credit: jeanbaptisteparis
また「沈黙の声」と題された展示は、現在活躍している三人の現代美術作家の紹介というカタチのものです。 水を用いた作品で知られる遠藤利克の《欲動ー近代・身体》は現代社会の、そして現代社会に生きる人々の足元に流れるどうしようもなく抗えない力、流れというものが 表現されています(正確には私がそう感じた)
また70年代からビデオアートの中心的存在であり続けるビル・ヴィオラの 《追憶の五重奏》は35ミリフィルムにより高速撮影された約1分間 の映像が、15分ほどに引き伸ばされたもので、一見5人の人間の静止映像のように見えるのですが、じっくり作品を鑑賞していると実は静止しているのではな く ほんの少しずつ5人の人々が動いているのが分かります。5人の人間が映されていることでそれは別に日常においてごく普通のことなのですが、 何の音も聞こえず、超スローモーションで展開されていくこの映像は、その日常的なものを非日常的な世界に存在せしめ、見る者に何か超世界、 言い換えればこの現実世界を超えた世界から現実世界を見ているような不思議な感覚へと誘い込みます。
Bill Viola – FIVE ANGELS from Institut fur Kunstdokumentation on Vimeo.
《針の女、2000―2001》は、韓国の伝統的な布を用いたインスタレーション作品で知られるキム・スージャのビデオ作品です。
長い髪を後ろで束ねた地味な服装の女性(作家本人)がカメラに背を向け、人々が行きかう街中でひたすら立ち続けているだけの映像です。
これはメキシコシティー、カイロ、ラゴス、ロンドンの4都市でそれぞれ同じように撮影され、その4つの映像が同じ空間に同時に流されるといった展示がされています。
それぞれの町の群集が、時には無関心、時には奇異の目を持って通過していきます。突っ立っている作者に対する群集の リアクションが各々の国ごとに異なり、ロンドンなんかはほとんど誰も気に留めず、逆にラゴスなんかでは皆立ち止まって彼女を見ている。
経済的、文化的、気候的差異が、街中でひたすら微動だにせず立ち続ける一人の外国人女性に対するリアクションの違いとなって現れており、 色々と考えさせられる作品でした。
ちなみに料金は一般430円、大学生130円です。安い…。見に行くべし。