先週行われたカナダGPでRobert Kubicaが自身初となるトップチェッカーを受けた。何の話かとお思いの方もいるだろう。世界最高峰のモータースポーツF1カナダグランプリでの話だ。
ここ数年はモータースポーツファンでなくとも知らぬ物のいない王者フェラーリとマクラーレンの2大チームでの争いといった様相のレースが続いていた。ここに割って入ってきたのが2006年に生まれたばかりのBMWザウバーのローバート・クビサ(ポーランド人)である。
多くの場合日曜深夜に放映されているF1を毎回欠かさずテレビの前で観戦しているなかばF1狂の私にとっては、08年シーズンも眠れぬ日曜が続くことがほぼ決定されたようなBMWの優勝だった。そんなBMWが先日とんでもないコンセプトカーを発表した。とんでもないといっても空を飛ぶわけでも、車内でポールダンスが開催されるわけでもないけれど。
BMWのコンセプトカー 『GINA Light Visionary Model』は金属でもプラスティックでもなく、布でできた車で、その概観のデザインをその日の気分に合わせて自由自在に変化させることができるのだ。
おそらく金属のワイヤーフレームにテンションをかけた布を張ることでできていると思われるこのデザインは、アートの世界では以前から良く見るものだった。
テキスタイルアートの分野や、コンテンポラリージュエリー(直訳すると現代 装身具。金属のみならず革やアクリル、ビニールや布など様々な種類の素材で作られ、使いにくい、かつ耐久性がないことこの上ないジュエリーを生み出している。ジュエリーという『形式』を借りてアートするようなジャンル。)の作品などで見慣れた手法で、布という可変的な素材がテンションを加えられて有機的で 人為を超えたシルエットを作り出す。だから発想自体は珍しいものではないのだが、それが車になってしまうところが強烈。
アートの意義はその創造性と、新たな価値観の創出にある。そしてそれは多くの場合常にそのことを考え試行錯誤を繰り返し続ける多大なエネルギーと時間の投資がなくては起こりえない。そしてなにがそうさせるのかは良く分からないのだが、色々な野菜や肉を一つのなべの中で濃縮させる煮込み料理のように、一人の人間の頭の中で様々なアイデアが煮込まれたところからしか『新たな価値の創造』は生まれ得ないようなところがある。(ような気がする。)
アートと、経済活動として生まれてくるクリエイティブをみているとそんな気がしてしまうのは私だけだろうか?
だから多くの場合、ひとつの事業として多くの人が協力し合って生まれるデザインからはおもしろいものが生まれる余地が限りなく少ない。もちろん企業での事業としてのクリエイティブでも、一人の人間の裁量がでかく、なおかつその人間が突出した能力をもっていれば話はべつだ。しかしそうでなくとも、そのアイデア自体をアートの分野から取り込んできてそれを実践する分にはおもしろいものができる。世の中に実現させる力は個人よりも企業としての事業のほうが大きいからだ。
BMWのコンセプトカー 『GINA Light Visionary Model』 についての詳しいことは以下の動画を見れば一撃で分かる。実はおもしろい発想というものは多くの人が持っていたりする。しかし重要なのはその発想を現実化 することで、頭の中にあるだけの発想は存在しないもさも似たり、いや存在しないとみなされるものだ。それはアートの世界でも事業としてのクリエイティブでも同じこと。おもしろい発想が天から振ってきたあなたは、即それを実現するための奔走に向かうべきだ。GINAはそんなことを人々に訴えている。