ピン札 $11,000分の紙幣、日本円にしておよそ90万円分(1ドル=81円)を材料に立方体をつくりあげ、出来上がった紙幣の立方体を削り出していくことで作られた作品。
作者はアメリカの彫り師、スコット・キャンベル。
スコットは他にも同様の手法でドレスをつくったり、タトゥーの文様を立体化した作品を発表しています。
紙幣を用いたアート作品は数ありますが、その中でも真っ先に思い浮かぶのが、日本の前衛美術家として知られる赤瀬川原平の千円札裁判。
千円札裁判
赤瀬川原平が1963年発表した一連の千円札を引用、複製した作品が「芸術か、はたまた犯罪か」を問うた日本美術史上名高い芸術裁判のこと。
裁判は1965年から行われ、1970年に有罪判決が確定、懲役三ヶ月、執行猶予一年の有罪判決を受けました。
では赤瀬川原平のどのような作品が問題になったのでしょう?
- 数十枚の印刷千円札を板にはり、何十個ものボルトを止めた作品
- 数十枚の印刷千円札の紙を『包み紙』とした梱包作品
- 数枚の印刷千円札に『切り取り線』をつけた作品
加えて1963年2月の個展「あいまいな海について」においては、千円札の表側を印刷しその裏面に展示の案内を載せたDMを制作し、それを現金書留封筒に入れて郵送するしたりも。
文字で言われてもよくわからないので、以下何点か赤瀬川原平の紙幣に関する作品をみてみましょう。
復讐の形態学(殺す前に相手をよく見る)
名古屋市美術館蔵(900mm x 1800mm)
千円札をルーペで観察しながら拡大模写した絵画。
大日本零円札
個人蔵(144mm x 308mm)
裁判中の1969年に発表した作品。
傍目にはいかに本物と見えようとも、やはり本物であることを御理解下さい。東京都杉並区成田東四ノ五ノ十四 大日本零円札発行所赤瀬川原平via : 別紙添書より
芸術とは何か?が法定で議論された裁判
この千円札裁判があまりにも有名なのは、その法定弁護人や証人に美術界の錚々たる論客が名を連ねたことにもよるだろうと思います。
どんな人達が赤瀬川原平の擁護に回ったかというと…
- 瀧口修造
- 中原佑介
- 針生一郎
- 中原佑介
- 中西夏之
- 高松次郎
- 針生一郎
- 刀根康尚
- 篠原有司男
- 山本孝
- 愛甲健児
- 福沢一郎
- 鈴木慶則
- 大島辰雄
- 粟津潔
- 澁澤龍彦
- 池田竜雄
- 中村宏
- 秋山邦晴
- 山田宗睦
私は生まれる前の事だったので、これを生で見られませんでした。心底残念としか言いようがない。。
スコット作品と赤瀬川原平作品
赤瀬川原平の作品は「印刷」によって複製された複製物としての千円札を用いてあたかも「本物」の紙幣のように見えるように作品化しているのに対し、冒頭のスコット・キャンベルはピン札そのままを用いて、それをドクロというモチーフに置き換えて作品化しています。
紙幣をつかうということでは同じであるかのような気がしてしまいますが、赤瀬川原平の作品は「お金とはなんなのか?」とか考えさせられたり「経済は信用で成り立っている」とかいう高校の教科書に出てきたような記述を思い出させてくれたりしますね。
一方のスコット作品は、ピン札そのまま使っているのでキャッチーでインパクトがありますが、それ以上のことは特になにも想起させてくれません。
アートとは一体なんなのでしょうか?
アートか否かの線引きはどこにあるのでしょうか?
スコットの作品はアートなのでしょうか?
エンターテイメントなのでしょうか?
赤瀬川原平の千円札裁判について詳しく知りたい方はwikipediaにくわしくまとめられているので是非ご覧アレ。
また絶版の本なのですが「オブジェを持った無産者―赤瀬川原平の文章」に裁判の詳細な経過が載っているようです。