おおざっぱに言うと、「ART」とは西洋の視覚芸術のジャンル名であり、その翻訳語として日本で明治に生まれたのが「美術」という言葉です。
「アート」という横文字はこの「ART」のカタカナ表記と考えられますが、美術大学や芸術大学で専門の教育を受けた人間たちが言うところ「アート」はFINE ART、すなわち応用芸術や大衆芸術と区別するために使われる語ですが、このファインアートの意で「アート」を使っています。そしてそれはアートの歴史、美術史に作品を組み込むことで成立する極めて限定的なジャンル名であります。
ここでは「アート」とは何かを議論するのではなく、現実における「アート」使われ方を調べて現状を把握することが目的ですので、すべて「ザックリ」といきますが、本来的にはこの「FINE ART」=「アート」と言えます。
ではこの「アート」ですが世間一般ではどのように認識されているのでしょうか?(注:横文字の「アート」は必然的に日本人のみが対象となります)
以下Google先生の協力のもと、ザックリとみてみます。
Googleで一ヶ月間に検索される「アート」
今回は一ヶ月間に検索エンジン(Google)で検索されるワードの中から、「アート」という語を含む検索クエリを抽出したデータを使ってみたいと思います。
これが一ヶ月に検索されるアートの語を含む検索クエリの上位100個になります。どうでしょう?みなさんの予想とおりの結果でしたか?それとも意外な結果でしたか?
円グラフでみる”アート”検索ワード
これだとちょっと見づらいので、視覚的に分かりやすくするために上記のデータを円グラフで見てみましょう。
円グラフをクリックしてマウスオーバーしてもらうとそれぞれのワード名と検索数がでてきます。
さて、最も多く検索されている(63.3%)「コメントアート」とは、ニコニコ動画のコメント機能を用いて、動画に様々な装飾を施すコメントのことで、本来の「ART」の意とは一切関係なく、またその「ART」の翻訳語である「美術」とも関係ありません。
上位10ワードにみる「アート」の使われ方
上位10ワードを抜き出して見てみます。
- コメントアート
- アートディレクター(クリエイティブディレクターの意)
- アートディレクション(クリエイティブディレクションの意)
- パフォーミングアートセンター(アニメ声優や俳優の専門学校)
- アート
- 大阪コミュニケーションアート(専門学校)
- ネールアート(ツメの装飾)
- アートスクール(日本のバンド名)
- ラリーアート(三菱自動車グループの企業)
- アートプリントジャパン(企業名)
なるほどTOP10を見ても本来の意で使われている「アート」はほとんど皆無ですね。ではTOP100のワードのうち本来の「ART」の意で使われているワードはどのくらいあるのでしょうか?
控えめに、かつ独断と偏見で本来の意で使われている検索ワードを抽出しその割合を調べてみました。
円グラフでみる本来の「ART」の意の割合
私の独断と偏見による抽出をご覧になりたい方はGoogleスプレッドシート「Googleで一ヶ月間に検索される「アート」」で公開してありますので、そちらを御覧ください。
おお…、自分で調べておきながらびっくりの結果ですね。。
実に99.8%の割合で本来の「ART」の意でない意味で「アート」という言葉が使われています。
原義的には「ART」とは視覚芸術を意味し、そのため音楽などの聴覚芸術や手にとって使われることを前提とする実用性のあるものを「ART」とは言いません。日本語で言うところの「芸術」の中の一ジャンルに「ART」があるわけです。
しかしながらこのように「アート」の使われ方をみていくとどうやら=芸術、ないしは=クリエイティブの意で一般化しているようです。
メディア特性もありますし、ザックリ把握出来ればよいので、統計学的に妥当かはさておき、現実に現在の日本においては「ART」≠「アート」として「アート」が存在しているということが言えそうです。