箱箱箱-増える日本の美術館とプラダの危機感

箱箱箱-増える日本の美術館とプラダの危機感

  • 投稿日時 || 2008年6月4日

箱だけ増える日本のアート

日本には美術館が腐るほどある。加えてここ数年は相次いで都内に大型美術館が誕生した。 森美術館を皮切りに、国立新美術館、サントリー美術館、2121デザインサイトなど。。また2009年には「丸の内パークビルディング三菱一号館」なるものが誕生するという。まぁこんなに作ってどうするの?とツクリテである私自身が驚いてしまう。

増えていくのは『箱』である美術館ばかりで、日本には斬新な表現を生み出している若手クリエイターが多いにも関わらず、企画されてる展覧会は大昔の巨匠といわれるおじさまおばさま、またもう亡くなってしまった作家 ばかり。箱だけ作って中身がない・・・。日本における美術概念形成の大失態の道を再び歩き出しているように感じてしまうのは私だけだろうか。美術に限らず日本はシステム、つまり『箱』だけつくって中身がないということを往々にしてやってしまうところがあるが・・・。

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さてそんな中、アートの源流であるイタリアはミラノに新しい美術館が建設されているようだ。仕掛け人はファッションブランド『プラダ』のデザイナー『ミウッチャ・プラダ』。設計するは世界的建築家として名高いレム・コールハース。 なぜだか建築物よりもその著書のほうが有名だったりする風変わりなおっさんだ。かつて蒸留酒の工場であった建物を美術館に改修し、イベントホール、シネマ ホール、10階建てタワーなどを新築することで構成されるとのこと。情報が錯綜していてよくわからないが2012年までには完成するようだ。

美術をこよなく愛しアートに価値を見出すミウッチャ・プラダは熱烈なアートのファンである。なんでも500以上の現代アートコレクションを所有しているらしい。

朝日新聞によればミウッチャは『オークション企業が芸術の価値を決める唯一の存在になってきた。アート自身も軽やかさやラジカルな批判意識を失いつつあるのではないか』という危機感をもっているという。また『ファッションは、アートとは別物の商業的な表現だと割り切っていた』とのコメントを紹介。

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個人的にはミウッチャの言うというとおり、アートとファッションは異なるものだし、アートとデザインもまた異なるものだと思っている。デザインはビジネス構造に拠って立つ情報再設計行為であり、ファッションもまた叱り。アートは必ずしも商業性を持たなくても成立する点において両者は異なる。

(例えばゴッホなんか は生前一枚もえが売れなかったそうですが、死後その評価はうなぎのぼり。でも評価が『うなぎのぼった』からといっても絵自体は描かれたときと変わっていないわけです。論ずるには多大な情報と議論を要することはわかっていますが、私はこれを『アートの価値は作品の外部にあるもの』とではなく『アートの価値は作品に内在するもの』として考えたい(希望))

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村上隆やウォーホルなんかは資本主義に根ざしたアート作品、商業的な戦術展開を図ってきたように思われるが、必ずしもアートはそうではない。立体系には厳しいが、食えなくとも自分の信念を貫き通すやり方もある。とは言っても芸術家って言ったって、超人でもサイボーグでもないのでご飯食べないと、つまりお金 がないと生きられない。しかし商売を意識した作品はおもしろいわけがない。それは既存の価値観に照合できる作品を生み出さざるを得ず、新たな価値を創造する仕事が生まれ得る余地がなくなってくるからだ。難しいですねぇ。

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ただミウッチャは『ファッションは、アートとは別物の商業的な表現だと割り切っていた』と過去形でコメントしているところに注目すると、ファッションもアートもその境界自体があいまいになってきていると感じているのだろう。一度その存在を、ブランドを確立してしまえば、商売を気せず己の信念に基づいて表現してもお金になる側面が大きくなってきているということだろうか。。はたまた人々がアーティスティックなファッションを求め始めているということなのだろうか。

とにもかくにもこのようなミウッチャ・プラダの危機感の元に建てられる美術館はどんなものになるのだろうと非常に楽しみだ。 信念があって箱をつくる。そんな当たり前のことを当たり前にやっているプラダ。

箱でしかない箱なんてマトリョーシカにしかならないよなぁ、、美術館の中に美術館を作ってそのまた中に美術館を作って・・・なら超おもしろいのに…!!
・・・なんて私は今の日本の美術館を見ていて思うのであります。

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